電子カルテや予約システムを「変えたい」と思っても、踏み切れない。いちばん多い理由は、新しさへの不満ではなく、「これまでのカルテやデータが、新しいシステムに持っていけるのか分からない」という不安だと感じています。
この不安は、正しい不安です。代表の関は、業務システムの受託開発でシステムの入れ替えを手がけ、いまも既存システムをクラウドへ移す案件でデータ移行に取り組んでいます。その経験から言うと、データの移行は「できる/できない」の白黒ではなく、「どこまで・どんな形で移せるか」で結果が大きく変わります。知らずに乗り換えると、過去の記録の一部を実質的に失うことがあります。
この記事では、特定のサービスをすすめることはしません。乗り換えを考えるときに、何を確認すればデータを守れるのかを、開発者の視点で整理します。
なぜ、カルテの移行は難しいのか
多くの業務システムは、自社のデータを「他社のシステムに引っ越しやすい形」で持っているわけではありません。理由は主に3つです。
- 標準の書き出し形式が決まっていない — 会計データのような共通フォーマットと違い、診療記録には「この形で出せば他社でも読める」という業界標準がありません。システムごとに、項目の持ち方が違います。
- 書き出せても、構造が崩れる — SOAP(主訴・所見・評価・計画)のように意味のあるまとまりで書かれた記録を、ただのテキストやCSVに書き出すと、「どこからどこまでが1回の診療か」「どの検査がどの日のものか」というつながりが失われがちです。
- 画像・添付・予約との紐付けが切れる — レントゲンやエコーの画像、同意書、予約履歴などは、カルテ本体とは別に保存されていることが多く、移行のときに「どのカルテのどの画像か」の対応が外れやすい部分です。
乗り換えで、実際に失われやすいもの
- 過去のSOAPの構造(一覧には残っても、診療単位のまとまりが崩れる)
- 検査数値の推移(グラフで見られていたものが、バラバラの数字になる)
- 画像とカルテの紐付け
- 予約・会計の履歴とカルテのつながり
逆に、名前・連絡先・動物の基本情報といった「台帳」の部分は、比較的移しやすいところです。
乗り換える前に、確認したい5つのこと
- 自分のデータを、自分で書き出せるか — 今のシステムから、CSVやPDFなどで全データを取り出せますか。取り出せない契約だと、乗り換えの主導権を持てません。
- どの形式で、どこまで出せるか — 「名簿だけ」なのか「診療記録も」なのか。出せる範囲を、乗り換え先ではなく今のベンダーに具体的に聞きます。
- 新しいシステムが、その形式を取り込めるか — 出せることと、取り込めることは別です。両方がそろって初めて移行できます。
- 移せない分を、どう残すか — 全部は移せないのが普通です。過去分はPDFや別の場所に「参照用」で残し、新システムには直近だけ入れる、という割り切りも現実的です。
- 並行して動かす期間をとれるか — 切り替えた日から全部新システム、は危険です。一定期間は両方を見られるようにして、抜けを見つけます。
「全部きれいに移す」より、「失うものを決めて移す」
理想は過去のすべてをそのまま移すことですが、それにこだわると、費用も時間もかかり、結局乗り換えられません。現実的には、
- 診療を続けるうえで本当に必要なデータ(直近の経過・継続中の治療・台帳)を優先して移す
- それ以外は、読める形(PDFなど)で保管する
と割り切るほうが、乗り換えは進みます。「何を失ってよいか」を先に決めることが、移行の設計です。
私たちの立場
トミースタジオは、特定の電子カルテや予約サービスを販売していません。だから「このサービスに替えましょう」とは言いません。
できるのは、業務システムの受託開発で扱ってきたデータ移行の経験をもとに、「今のデータが何を・どこまで移せるか」を一緒に確認し、必要なら移行や、サービス同士をつなぐ部分をつくることです。乗り換えるべきでないときは、「今のままでいい」ともお伝えします。
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